昨対分析(YoY)の落とし穴:要件定義で押さえるべき3つのポイント

昨対分析はよく利用される分析方法の一つですが、いざデータマートを実装してみると「これで本当に目的を達成できるのか?」と不安になったり、依頼者も考慮から漏れていることもあり、言葉以上に難しくなりがちです。

今回は昨対分析においての要件定義のポイントを紹介していきます。

目次

昨対分析とは

昨対(さくたい)分析とは、「昨年対比」の略で、前年同期と比較して現在の業績を分析する手法です。小売業やサービス業を中心に、多くの企業で重要な指標として活用されています。英語では「Year Of Year」を略して「YoY」と表すところもあります。

なぜ昨対分析をするの?

  • 事業の成長や衰退を把握できる
  • 季節変動の影響を除外して比較できる
  • 経営判断の重要な指標として活用できる
  • 現場レベルでの改善活動の指標として使える

要件定義で確認すべきポイント

要件定義で確認すべきポイントは大きく3つあります。

  • 比較する日付の設定方法を決める
  • 集計単位を決める
  • データの特性を共有する

ポイント1. 比較する日付の設定方法を決める

「昨対」と一言でいっても、「前年の同じ日」という基準は認識齟齬が起こりやすいポイントです。「昨対」の要件が依頼する人によってバラバラにならないように定義しておくのがおすすめです。

同一日付とする場合のメリット・デメリット

単純に1年前の日付と比較するというシンプルなパターンですが、曜日によるズレの影響を受けやすい基準です。また閏年の場合は1年前の2月29日が存在しないため、何も考慮しないと値が空となってしまいます。

同一営業週の同一曜日とする場合のメリット・デメリット

同じ営業週の同じ曜日を基準とするパターンです。前述のように曜日による影響を受けないため、よく採用されています。閏年による影響も受けません。ただし、祝日の影響を受けやすい基準となります。

また「同一営業週」という要件がややこしく、今後のメンテナンスもし続ける必要が出てくるようなこともあります。

  • 週番号を採用する(システムによるものだと、年末年始の計算方法が違うものもあるためズレる可能性がある)
  • 会社の営業カレンダーで定めた週番号を使う(安全だが、営業カレンダーをメンテナンスし続ける必要がある)

1年前の同じ曜日とする場合のメリット・デメリット

場合のメリット・デメリット純粋に1年前の同じ曜日を比較します。シンプルさでいうと3つの中で1番です。曜日の影響を受けず、閏年の影響も影響も受けません。ただし、祝日の影響を受けやすい基準となります。

特に営業カレンダーを定めていないスタートアップ企業や中小企業のデータ分析ではこちらをよく採用しています。

基準の選択理由を明確にする

基準とするものを決めたら、その理由を要件メモとして残しておくのがおすすめです。一時的なデータ抽出の場合、1年後に同じような抽出案件として出てくるため「なんでこの基準になっているのか」が分からなくなり、またこの基準の要件定義で時間を使ってしまいがちです。

そのため基準の採用理由を記録に残し、翌年の分析に活かしましょう。

曜日によるズレ祝日によるズレ閏年によるズレ
同一日付影響あり影響なし影響あり
同一営業日の同一曜日影響なし影響あり影響なし
1年前の同じ曜日影響なし影響あり影響なし

ポイント2. 集計単位を決める

データの集計単位を日次/週次/月次などで決めます。BIでの集計を前提している場合のデータマートでは日次集計が一般的です。

ただしデータがあまりに大きいとBIツールでも計算が間に合わない場合は、データマートで週次・月次を計算せざるを得ない場合もあります。

週次の場合、週の開始日の定義を決める

週次で集計する場合、次のような理由から週の開始日を決める必要があります。

  • 会社によって週の開始日の定義が異なることがあるため
  • 同じ会社でも、部署によって認識が違うことがあるため

このような違いがあると、データ分析者の間で誤解を生じ、問題が生じる可能性があります。そのため、以下のことをおすすめしています。

  • 週の開始日を全社で統一する
  • 統一された定義を全ての関係者に周知する

これにより、正確で一貫性のあるデータ分析が可能になります。

4月始まりなど、会計年度の扱いを決める

年単位で集計する場合、多くの企業では4月1日始まりの会計年度に合わせて分析します。ただし、分析の目的によっては暦年(1月1日から12月31日)で集計することもあります。どちらの方法で集計するかは、事前に確認しておくことが大切です。これにより、後で混乱が生じるのを防ぐことができます。

ポイント3. データの特性を共有する

扱うデータの特性は共有しておきましょう。ここではWebサイトのアクセス解析に関する特性をいくつか紹介します。アクセス解析データはとても有用ですが、同時にいくつかの注意点があります。

分析期間のツールや条件は揃える

例えば、GoogleアナリティクスがGAからGA4に変更されましたが、これらは異なるツールなので同じように扱うべきではありません。PV(ページビュー)やセッションなどの指標の定義が変わったため、以前のデータは参考程度にとどめるのが良いでしょう。

この問題はGoogleアナリティクスだけでなく、他のアクセス解析ツールにも当てはまります。各ツールで指標の定義が異なるため、アクセス解析を行う際は同じツールで測定したデータのみを使用するようにしましょう。

欠損が発生することもある

多くのウェブサイトでは、JavaScriptを使ってアクセスログを収集しています。しかし、ユーザーにはページが正常に表示されているのに、ログが正しく送信されないことがよくあります。

このようなデータの欠損には、いくつかの原因があります。

  • アクセスログ用のタグが設置されていない
  • タグの設定が間違っている
  • 他のJavaScriptのエラーによってアクセスログの送信が中断される

実際のサイト利用状況とアクセスログのデータに差が生じる可能性があります。そのため、アクセスログを分析する際は、このようなデータの欠損があり得ることを念頭に置く必要があります。

サイトの改修情報・広告出稿情報はアクセス解析ツールには存在しない

サイトのPVが急に減少したときは、サイトの変更が原因かもしれません。例えば、サイトのリニューアルが行われていた可能性があります。このような変更情報はアクセスログには記録されないので、別に記録しておく必要があります。

サイトの変更には、機能の改修だけでなく情報の構造変更も含まれます。例えば、ECサイトの商品カテゴリーを変更した場合、後から気づきにくいことがあります。

広告の情報も重要です。大規模なキャンペーンを実施すると、通常とは違うアクセスパターンが発生することがあります。このような外部要因を考慮すると、データをより正確に理解できます。

そのため、マーケティング部門と密接に連携し、定期的に情報を共有することが大切です。これにより、アクセス解析の精度が向上し、より良い意思決定ができるようになります。

まとめ

昨対分析は「前年と比較する」というシンプルな概念ですが、実際の要件定義では比較基準の選択や集計単位の設定など、多くの検討事項があります。同一日付、同一曜日、営業週での比較など、それぞれの基準にメリット・デメリットがあり、組織での認識統一も重要です。

データの特性を理解し、分析の目的に合った要件定義を行うことで、より正確で意味のある昨対分析が可能となります。本記事の内容を参考に、自社の分析基準を見直し、より良いビジネス判断に活かしていただければ幸いです。

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